明楽の入学式・11
――ぺぢゃっ。
「え……?」
踏み出した足が妙な感覚を踏む。タイルの上に大きく広がる水溜りに、上履きが沈んでいた。
そして明楽は、鼻をつく悪臭の原因が、自分だけではないことを悟った。
ぱくりと口を開けた洋式便器――便座まで持ち上がった白いトイレは、その縁ぎりぎりまで汚れた汚水で満たされていた。真っ黒に汚れた便器が限界まで汚水を湛え、さらに溢れた汚水はタイルまでも汚している。
(う、ウソ……)
信じられない光景に、明楽はしばし言葉を失う。
トイレは故障していた。誰かが、利用した際に水を詰まらせてしまっていたのだろう。排水は流れずにタイルまで溢れ、便器どころか個室まで歩み寄ることも難しいほどに汚れている。
よしんば辿り着いたとしても、この状況のトイレでうんちを済ませるなど、叶うわけもない。
「い、いや……ぁ」
か細い声で、明楽は悲鳴を上げる。目の前にすっと真っ暗な幕が下りたようだった。
(と、トイレ、壊れて……つ、使えな……っ、こ、こんなに、我慢したのに、我慢してるのにぃっ……うんち、だっ、出せないの……っ!?)
びくびくと引きつる消化器官の反乱に、明楽はたまらずに膝を折ってしまった。力の入らない腕は低くなった姿勢を支えきれず、少女はそのまま便器のまん前にしゃがみ込んでしまう。
(――ぁ、あ、ダメ。ぅ、あ、あっ!!)
しゃがむ、という姿勢。
脚を開き、腰を落とし、おしりをわずかに持ち上げて、排泄孔を下にしたその姿勢は、ちょうど和式便器にまたがる格好。つまりもっとも原始的な排泄に適した姿勢だ。
ぶぷっ、ぶぷすっ、ぶびっ!! ぶりゅぶぶぶっぶぼぼっ!!
既にガスの音は、本当の排泄とほとんど区別がつかない。濃密に圧縮された腹圧のせいで、まるで個体のように強烈な放屁が繰り返されているのだ。明楽本人にも、まだ『ミ』が漏れていないのかは判断できなかった。
「ぁああうっ、あああああぉああぁっ、」
それはもはや、排泄と何ら違いはない。物理的に中身を押しとどめているとは言え、激しく蠕動する直腸と内側から捲れ上がる排泄孔は、延々と排泄器官をなぶられているのと同じ事だ。
しかし、実際に排泄が行なわれない以上、明楽の苦しみはいつまで経っても途切れることはない。一度不調になった腹腔が、異物を吐き出すことなく再びおさまることなどありえないのだ。
ぶりゅ、ぶばぼっ、ぶびびびびぃーーっ!!
ぱくり、とひらいた少女の排泄孔から、隠しようもない猛烈な爆音が鳴り響く。
朝からの活発な排泄活動によって、新たに発生したガスが放出されていたのだ。膨れ上がった下腹部を少しでも楽にするため、少女の身体は積極的に擬似的な排泄行為を繰り返す。
だが、これらの原因となっているモノを出せないのなら、それは無意味どころか悪循環だった。
ぐいと突き出されたおしりは、まるで不恰好なアヒルのよう。もっとも危険な体勢をとる明楽の制服のスカートの下で一週間に渡って少女の腸内で腐敗し、練り上げられたガスの塊が、猛烈な勢いでほとばしる。唸る重低音で排泄孔を惨めにひしゃげさせながら、小さなおしりをぎゅっと押さえ、明楽は便座を掻きむしった。
「ぁっあ、ぁっあぁうぁっ」
もはや嘆きは言葉にもならない。吹き荒れる猛烈な便意の嵐が、少女の理性を打ち砕く。これからまた立ち上がり気力を振り絞って便意を堪え、他のトイレまで向かう――それがどう考えても不可能な行為であることは、明楽も理解していた。
「だ、めぇ……っ」
明楽を襲う便意の激しさを物語るかのように、少女の下腹部は激しく波打ちつづけていた。もはや疑いようもなく、明楽はこれから始まる決壊の時を耐え切ることは不可能だ。
これほど激しくガスを排出しても、まだなお明楽のおなかはまるで収まる様子を見せなかった。ぐるぐると唸る獣のような腹音が、固形の内容物を明楽の下腹部の底へと集めてゆく。
わずかな力だけで支え続けられている、小さな排泄孔に。
既に明楽の下半身は便意に占領され、植野明楽という少女は、ただ出てしまいそうなうんちを我慢するためだけに存在しているといっても過言ではなかった。
(も、もう、今日から、中学生、なのにっ……)
ぎゅっと閉じた瞼から涙が滲む。
ひっきりなしに唸り続ける下腹部が、ごぼりごぼりとうねり、蠢いて、下品な重低音を何度となく響かせる。
1週間前――月をまたいで、まだ明楽が小学生だった時から溜まり、くすぶり続けていたおなかの中身が、明楽をオトナにすることを阻止するかのように暴れまわり、少女を苦しめる。
「ぁ―――」
(やだ、だめ、だめ、だめっ、だめぇ、だめぇええッッ!!)
びくりと盛り上がった排泄孔が、とうとう絶望に屈する。明楽が、ここでこのままうんちをしなければならないことは、避け得ない。
ぶっ、ぶぅうーっ!! ぶびっ、ぶちゅぶぶぅうっ!!
ぶじゅっ、ぶぶぶぶびぶぢゅっ!!
ひしゃげた排泄孔が吹き上げるオナラが、その開幕となった。
濃密なガスの排出で下着の中身が撹拌され、また粘液にまみれた便塊が下着の中に産み出された。地獄の蓋もさながらの激しい悪臭が当たり構わずに炸裂する。
猛烈な便意が一気に少女の腹を駆け下る。
本来なら七日間、七回以上に分けられて排泄されるはずだった分が、一度にダムを破壊し溢れ出したのだ。一週間お通じのなかった明楽の脱糞がたったこれだけで済まされるはずがない。明楽の腸内で荒れ狂っていた便意のもとは、まだ姿を見せてすらいなかった。
ぶっ、ぶすっ、ぶりゅぶばびっ!!
めくれ上がった排泄孔が激しい屁音をヒリ出す。これから始まる壮大な排泄を予告するように高らかに鳴り響いた下品極まりない音に、明楽は声を張り上げた。
「やだあっ……うんち、でちゃう……うんち、うんちでちゃだめっ、がまんしたのにっ、ずっとがまんしたのにっ、うんち、うんちでちゃう、でるぅう……っ!!」
せめて。
最後の最後に残った少女のプライドに縋り、明楽は下着を掴んで引きちぎらんばかりに引っ張り、汚れきったお尻を露にする。凄惨なまでに汚れきった下着の中から、べちゃ、と溜まっていた汚辱の塊が足元の汚水に落ち、飛沫を立てる。
ぼとっ、べとぼちゃぼととっ!! ぶびっ、ぶぢゅぶぶぶぼっ!!!
「ぁああぅうっ……ぁあああああっぁ、っ」
明楽の悲鳴もよそに、ごぶりと吐き出された硬質便の塊が、圧倒的な質量を爆発させた。下着の隙間には収まりきらない大量の極太の便塊が、直接、汚水まみれのタイルの上にヒリ出されてゆく。
ガスの排出とは比べ物にならない、なろうはずもない。
猛烈な腹痛と排泄欲求で、明楽はもうまともな言語すら発せられなかった。ぐっと食いしばった歯の隙間から、だらしなく唾液がこぼれ落ちる。
ぶぶにゅみちみゅちっ、ぶぶぴっ、みちゅみちっ、ぶりゅうぃいっ
今度は、硬質便とも違う感触。栓の役目を果たしていた排泄孔直下の巨大な塊が排泄されたことで、その奥に順番に詰まっていた排泄物が次々に押し寄せてくる。直腸を満たすのは、いつも明楽がトイレで済ませているのと同じ、程良い硬さを保った焦茶色の粘土細工だ。
ただし――その量は桁外れに違う。1週間分の食物を溜め込み続け、とうとうそれを排出する機会を得た明楽の排泄器官は、この機を逃さずありったけの中身を絞り出そうとしていた。
「ひぐぅっ……!!」
圧倒的な質量でこね回される排泄孔から、小さな孔を限界まで押し広げ、ついに第3派の排泄が到来した。
汚れたおしりをひくつかせ振りたてながら、明楽は押し寄せる汚濁を塞き止めようとわずかな抵抗をした。せめて少しでもトイレの奥へ進もうとするのだが、しかし下腹部を支配する便意は少女になけなしの羞恥心を守ることすら許さない。
ぬぬぶっ、ぶびっ、にちゅみちゅむちっににゅっ、ぶびぶぼばりゅうっ!!!
茶色の軟体動物が、体液を撒き散らし、下着を引きちぎって明楽の身体の中から這い出してゆくかのような光景だった。伸びきったゴムの隙間からうねうねとのたうつウンチが溢れ、明楽の脚の間に積みあがってゆく。汚らしい排泄音を撒き散らしながら、明楽の下半身に汚れが蓄積してゆく。下着の隙間からつぎつぎと野太い茶色の塊が押し出され、床にべちゃべちゃと転がった。
次々と産み落とされる恥辱の塊が、少女の心を完膚なきまでに切り刻んでゆく。
「ぁ、あっ、あふっ、く、ぐぅっ……」
なんとか排泄をとどめようと腰をくねらせる明楽だが、腹痛に悶え排泄の解放感に震える下半身は何度となく絶頂へと突き上げられるばかり。むしろその行為は自分自身が吐き出した汚辱の塊が積み上げられた山を左右に拡げるだけだった。
トイレの一面を覆う汚水の上、みるみるうちに焦茶色の山が積みあがってゆく。
その間にも、腸液に覆われることで抵抗を無くした塊が、ぐねぐねと少女の小さな排泄孔を押し広げてゆく。
可憐な少女の腹部で捏ね上げられ、貯蔵されていた悪臭を伴う焦茶色のオブジェは、前衛芸術とばかり複雑な形をこねくり回し、間抜けな放屁の音を伴って乙女のプライドを叩き壊すようにひりだされる。 生命活動の終着点、たとえ生涯愛する相手でも晒したくは無いと誓う、恥辱にまみれた排泄行為。
「やだ……ぁっ……」
たとえようもない程の悪臭と、まるでこの世に地獄の蓋が開いたかのような惨劇。泣き崩れる明楽の耳に、さらに信じられない光景が映る。
「ね、ねえ……」
いつの間に時間が来たのか、トイレの前には何人もの少女達が立っていた。一様に顔を青褪めさせ、ぎょっとした表情で大きく距離をとり、明楽を睨んでいる。トイレの入り口近くの床にしゃがみ込み、大量の汚物を足元に積み上げてなお排泄を続けようとしている明楽と――床一面に広がる汚水の水たまりを。
「ぁ……」
きゅう、と明楽の心臓が跳ねた。
(や、やだ……っち、違うの、ち、ちが……っ)
この状況で、汚水まみれになって故障したトイレと、そのすぐ前で制服を派手に汚し、猛烈な脱糞をしている少女――本来無関係なはずのふたつを、切り離して考えるのは不可能だった。
「うそ……なによ、こんな所で何やってんのアンタ」
「うわ、信じらんないッ!!」
「こ、これあんたがやったの? ねえ!?」
ざわつく少女達の詰問に、明楽はすうっと気が遠くなるのを感じた。
「あ、ち、違、っ……あくぅぅあ!?」
ぎゅるるるっ、ぎゅるっ、ぐりゅるるっ、ごきゅるぅうぅる!!!
腹部を駆け抜ける荒々しい衝動は、明楽が気絶することすら許さない。
いや、もしそうでなくとも、トイレの入り口にしゃがみこみ、踏ん張ったままの少女に弁解の余地があっただろうか。
羞恥と混乱に幼児化した思考で腰をくねらせるも、便意は止まらない。続けて腹奥がうねり、ギュルルルルルルッという激しい異音を伴って、第4派、第5派の排泄が押し寄せる。
既に弁としての役目を失った明楽の排泄孔は、そのまま直腸に殺到した撹拌された粘液と、排泄物が混ざったものを激しく地面に吹きつけてしまう。主人の意に添わぬとは言え、何度となく汚辱を吐き出して排泄の準備の整った下半身は、荒れ狂う排泄衝動のままにありったけの中身を吐き出した。
めくれがった排泄孔を貫く固い感触と、みちみちと音を立てて少女の足元に山積みになる焦げ茶の塊。熱量をごっそり失った排泄孔はぎゅうと収縮し、便意の第3派の成すがまま半粘性の排泄を繰り返してゆく。
惨めにひしゃげた音を繰り返しながら、吐き出された大量の汚物が大きくとぐろを巻いて外にこぼれ落ち、昇降口に焦げ茶色の汚辱を撒き散らしてゆく。長い間腹痛を我慢し、直腸の蠕動に内容物を撹拌されて分泌され、溜まった腸液がまるで浣腸と同じような役目を果たし、激しく収縮した排泄孔から勢い良く飛び出して廊下に飛び散る。
1週間以上前、ちょうど3月の最終日。明楽が、まだ小学生だった頃に食べたものが、実に200時間近くにも及ぶ長い長い熟成期間を経て、オトナの仲間入りをしたはずの明楽に屈辱のオモラシを強制している。
「ち、ちがうのっ、違うのぉっ……見ないで、見ないでぇえっ!!! あぐ……ふぐぅうぅっ……ぁああああ!!!!」
無数の軽蔑と侮蔑の視線の中、明楽はもはや取り返しのつかない屈辱をどうにか押さえこもうと必死だった。
ぶぷっ、ぶぴっ、ぷぴぴっ、
うんちが止まらない。文字通り、おなかが壊れてしまったかのようだった。
ひくひくと蠢いては下品なおならを繰り返し、盛り上がった明楽の排泄孔がにじみ出る腸液を撹拌する。直腸で分泌された粘液が蠕動を促し、少女に屈辱的な排泄姿勢を強制する。ぶじゅぶじゅと漏れ出るガスの連続音は、少女の直腸が圧倒的な質量に半ば占領され、限界を迎えつつある事を示していた。少しでも内部の容積に余裕を作るため、腹圧に負けたガスが自然に漏れ出しているのだ。
「ぁあああああうぅぅっ!!! また、またでるぅ……でちゃぅ…っ!!!」
ぶびっ、ぶりゅっ、びりゅりゅりゅりゅっ、ぶじゅぶぢゅぢゅるるるびちゃっ!!
ぶじゅぶばぶぼっ!!ぶぶぶぼごぼぶぼぼぼぼりゅーーっ!!!!
裏返った声で次の便意を訴え、排泄を予告した明楽のおしりで、激しい腹音が轟いた。
今度は激しく土石流のような半粘性の塊が吹き出す。量も匂いも圧倒的で、積み上げられたうんちの塊をそのまま押し流さんばかりだ。これらは明楽が過剰に摂取した便秘薬の薬効によるもので、排泄器かんの遥か奥に詰めこまれていた分になる。
だが、まだ終わらない。明楽の屈辱の排泄劇は、こんなもので終わるわけがない。何のために今日一日を耐え抜いてきたのか。
――そう言わんばかりに、固形から液状、ありとあらゆる形状、色彩、悪臭のバリエーションを保ちながら、明楽の排泄は続く。
「やだ……もうやだぁ……っ」
断続的に絞り上げられる消化器官。顔を真っ青にして明楽はおなかを抱えこみ、沸き起こる便意を抑えこもうとする。
再度、激しい腹のうねりとともに、どぱぁと半粘性の塊が激しくトイレの中へ叩き付けられる。今日一日、明楽の下腹部から悪臭が撒き散らす原因となった大元の汚辱が吐き出された。
すでに一人で立っていることも叶わない明楽は、成す術なく転び、自分の排泄物で汚した床の上に派手にしりもちをついてしまう。長い我慢でスカートは膝の上まで捲れ上がり、ぐちゃぐちゃと小さなおしりが足元にうずたかく積みあがった汚濁を掻き回す。
あまりにも異様な排泄。ただのオモラシでは片付けられない大量脱糞に、周囲の生徒達も言葉を失っていた。トイレですればとか、せめて物陰でとか、我慢しろとか、そうした言葉では片付かない光景だ。常識では考えられない途方もない事態が、圧倒的な説得力をもって眼前に繰り広げられている。
排泄と言う自然の摂理に弄ばれ、記念すべきオトナへの第一歩を踏み出した日に、訪れたあまりに不幸な少女の運命。――それを望む者がいる限り、この悲劇は終わらないのだ。
「あ、あ、あ……」
およそ、20数分に渡って。明楽の排泄孔はいつまでもぱくりと開き、そこから悪臭を伴う塊を吐き出し続けた。
(了)